『世界史の構造』柄谷行人著のレビュー※これって根拠がある話なのか?

書評

『世界史の構造』柄谷行人著のレビューです。

かなり分厚い本で定価は何と3,500円+税です。

今どきの本にはない存在感があり力作であることは間違いなさそうです。

内容的には話の進め方が混み入っているもののいつもの柄谷行人っぽい内容だと思います。

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『世界史の構造』はどんな本なのか?

この『世界史の構造』は柄谷本の中で言ってみれば到達点であると言えるでしょう。

『世界史の構造』は体系的な内容であるということですが、それよりも『世界史の構造』の内容が柄谷行人独自の論理であるということが到達点なのではないかと思います。

ただその他の本は独自じゃないのか?と言われると独自な論点はあるもののマルクスやカントの柄谷的な解釈という色合いが強いです。

この本もまだまだマルクスやカントといったものを紐解いて議論が展開される部分があるのですが、「交換様式から社会構成体の歴史を見直すことによって、現在の資本=ネーション=国家を越える展望を開こうとする企てである」(『世界史の構造』序文より)とあるように全く新しい試みであることが最初に宣言されています。

この本によって柄谷は批評家から思想家と呼ぶべきでは?という感じがしてきました。

内容の是非はあると思うのですが、柄谷行人はとうとう独自理論に辿り着いたと言えるでしょう。そういう位置付けの本です。

『世界史の構造』で言われていることは根拠があるのか?

まず考えるべきことは「これって根拠ある話なの?」ということです。

序文にありますが

「交換様式から社会構成体の歴史を見直すことによって、現在の資本=ネーション=国家を越える展望を開こうとする企てである」(『世界史の構造』序文より)

柄谷理論でお馴染みの”現在の資本=ネーション=国家”という見方はそもそも正しいのか?という疑問があります。

また「交換様式から社会構成体を見る」ということが多くの人にとって意味が不明だと思うのですが(この本を読むと理解できるかもしれません)、読後の感想としてはこういう見方もあるんだろうけど、例えば学説として成立するものなのか?左翼系以外の学者はどう評価するのか?といった疑問も沸き起らないでもないです。

ですからこの本にはいろいろと疑問はあります。

ハッキリ言ってこれは(別に悪い意味ではないですが)左翼が書いた本であり、柄谷が言う展望というのは共産主義に他ありません。ただ現在も暴力革命に代表される共産主義にまつわる負の遺産が左翼的な言説に影を落としていておおっぴらに議論がなされることはなくなっています。

しかし柄谷は左翼のそういった過去の失敗を全て批判している立場であり、その上で今後共産主義の可能性を問うているのが『世界史の構造』の論点の一つであると言うこともできるかもしれません。

こういう本に科学的根拠はあるのか?

もっともこの本ばかりではなく、これまでの左翼系の本に科学的な根拠というのは無いと思います。空想的社会主義と科学的社会主義というような言い方がありますが、かつて言われた空想的社会主義を批判した上で出てきた「科学的社会主義」についても”科学的根拠”など認めれないものと言って良いでしょう。

同じようにこの本にも根拠はないと思います。言ってみれば柄谷行人の直感力に頼る部分が大きいとしか言いようがありません。

しかしこれは断罪でもなんでもなくこういう本はそういうものだということです。例えばカントの『純粋理性批判』の内容は今では間違いだと断罪されてはいますが(※今では間違っている部分がある)それは仕方ないことでしょう。

また間違ってもいいじゃないかと思うわけです。

柄谷本としてはかなり読みにくい

柄谷本の特徴としては「読むと分かった気になる」ということがあります。

柄谷行人は文章の運びが巧みであり読者に「そうか、そうなのか」と分かった気にさせてくれます。

しかしこの本の内容は中々頭に入って来ません。

どんどん話が展開されていくのですが本当に合っているのか不安になったりします。私だけ…?

それでも頑張って読む時間的余裕、精神的余裕が必要ですので買って放置するなら思いとどまった方が良いかもしれません。

『世界史の構造』を読むメリット

『世界史の構造』について何だかネガなことばかり書いてきた感があります。

しかし『世界史の構造』を読むメリットはあると思います。

例えば共産主義について誤解している人は読んだ方が良さそうです。

未だに共産主義は旧ソ連や現在の中国共産党のようなイメージであれば違うと思います。

また先進国においては一人ひとりが立ち上がり共産主義的な運動が沸き起こるような革命的精神でもって共産主義をイメージされている方もこれを読んだ方が良いです。

柄谷行人はいずれのイメージにも属しません。

柄谷行人流の共産主義を「理論的に」表したのがこの『世界史の構造』であるというように言えるでしょう。

柄谷行人が行き着いた共産主義とはどのような形なのか?というのは読めば分かる!と思います。

おすすめ度…★★★★(5点満点)

力作なので4点